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フィルムカメラプロジェクト ~目一杯の祝福をペンタックスに~

更新日:2022年12月27日

 終わらないコロナ禍、終わらない戦争……。波乱と動乱に満ちた2022年も年の瀬に迫った12月20日。リコーイメージングから驚きに溢れたプロジェクトが発表されました。その名も「ペンタックスフィルムカメラプロジェクト」。一言で言えばペンタックスによるフィルム事業参入宣言です。


 フィルムカメラと言えば、写真の主役をデジタルに譲って久しい技術。ニーズはもちろん、もはや新品のフィルムカメラを製造しているメーカーなどはほぼ存在せず、フィルムそのものにあっても次々に廃盤、価格の高騰、現像サービスの減少が続いており、はっきり言ってしまえばレッドオーシャン。


 ペンタックスもまた、(確か)2003年に発売された*istを最後にフィルムカメラの製造は終了してしまったと記憶しています(違うかもしれません)。それなのになぜ、今頃になってフィルム事業に参入するというのか。リコーイメージングからは文章と動画2本が公開され、そこにフィルムカメラプロジェクトにおける意図や目的が、理由や目標が語られています。

 それらによると……


・ペンタックスはフィルムカメラの新規開発の検討を開始する。

・その理由は、若者を中心にフィルム人気が広まりつつあるから。

・独自のWebアンケートでも、カメラ所有者の20%がフィルムカメラを所持しているとの結果が出た。

・製造・販売、アフターサービスまでをリコーイメージングが担い、フィルムを楽しむ手伝いをする。

・誰もが安心して楽しめるフィルムカメラを開発するというチャレンジを始めた。

・過去のモデルの復刻ではなく、今の時代にマッチした機能の新しいフィルムカメラ。

・若いユーザーの手に届く金額で提供し、フィルムカルチャーを支えたい。

・まずはフィルムコンパクト。続いてハイエンド。ゆくゆくは一眼レフやフルメカニカルというロードマップ。

・これはペンタックスにとって、技術の伝承と意味合いもある。

・今がフィルムカメラの開発・製造のノウハウを若手エンジニアに継承する最期の機会。

・デジタルはやめない。両方頑張ってゆく。

・この宣言はフィルムカメラの新規発売を約束するものではない。

・できるかできないかは正直分からない。途中で挫折するかもしれない。


 今回のフィルムカメラプロジェクトについては大きな反響がありました。そしてTwitterやYouTube、デジカメinfoの記事を見ている限り、その声のほとんどはプロジェクトを肯定・応援するものばかりとなっています。


 ……一方で、ペンタックス(デジタルカメラ)の現役ヘビーユーザー、ロイヤルカスタマーもしくはペンタックス廃人の方々にのみ限って言えば、かなり懐疑的な意見や大きな失望のコメントが多いように思われます。乖離がものすごいですね……。そしてこちらは全体で言うとかなりの少数派に留まっています。


 自分自身の意見や立場は、今回のフィルムカメラプロジェクト宣言は極めて立派な志だと思います。そして非常に崇高な理想と理念だと思います。そう思った上で、応援したい気持ちは山々ではあるけれど、「それ以前にやるべきこと、見るべき世界がたくさんあるのではないか?」というものです。宣言そのものには肯定的だけれども、賛同は致しかねます。それもかなり強く。


 何故、自分はフィルムカメラプロジェクトに賛同できないのか。それはペンタックスの開発力の乏しさに尽きます。現行のデジタルカメラにおいてすら、開発の遅延・発売の延期が何度も何度も起きているのが現状です。新たにフィルムカメラのラインを立ち上げて、しかも何台も新製品を開発するほどの余裕はあるのか!?ということです。


①経営が順風満帆で

②普段から開発に遅延や延期がなくて

③なおかつ余力がある


だったらいくらでも応援しますけど、リコーイメージングは全てにおいてダメダメじゃないですか。その辺の懸念が払拭されない限りは賛同しかねる……というのが正直な所です。


 しかもです。開発がやたら遅いだけではありません。登場する新製品(ボディ)だって、他社の一周遅れどころか二周三周遅れ。散々ユーザーから突き上げられてきたオートフォーカスなんて、フィルム時代のキヤノンKissにも劣るレベルではありませんか(そして一向に改善されない!)


 現行機種のK-1 MarkⅡもK-3 MarkⅢも、開発に時間はかかるわ発売は延期しまくるわ……であったにも関らず、登場したのはかなり中途半端な性能のカメラでした。K-3Ⅲに至っては、明らかに高すぎる値段とその性能がマッチしていない。KF?背面液晶を換えただけでよく新製品を名乗れましたね……!?


 ……それでも、それでもペンタックスユーザーたちがブツクサブツクサ言いながらもペンタックスのカメラやレンズを買い支えてきたのは何故か。それは「ペンタックスの未来を信じて」「いつかもっと良いデジタルカメラが生まれる日を期待して」との意味合いもかなり強かったと思うのです。時にはあやしいペンタックスグッズ(割と値段は酷かったと思いますよ)とかにお布施してみたり。少なくともそこには「フィルムを作って欲しい!」なんて想いはなかったはずです。


 それなのに、それなのに! ペンタックスはそういったヘビーユーザー・ロイヤルカスタマーたちの声……これまで実際にペンタックスに対してお金を落としてきたユーザーたちの声とは裏腹に、その真逆であるフィルムカメラへの取り組みを始めてしまいました。これをユーザーを蔑ろにしていると言わずして何と言うのでしょうか。


 ペンタックスフィルムカメラプロジェクトに対して無邪気に賛同してるフィルムユーザーたちって、K-1シリーズもK-3シリーズもKPもQも、あるいは他のエントリーも所有していなくないですか……? その人たち、今までペンタックスのデジタルカメラにどれぐらいお金を落としてきたんですか……? その人たちの為に、ペンタックスユーザーが切って来た身銭をつぎ込むと言うのですか……? そりゃ某氏だって「フラれた!」って言いますよ。みんな激おこになるわけですよ。諦観もする訳ですよ。泣きたくだってなりますよ!


 もう一度申し上げますが、フィルムカメラプロジェクトの理念そのものについては応援したいです。技術の伝承も大切です。それはよーくよーく分かります。でもそれ以前にやることあるでしょう……? 優先順位、めちゃめちゃ間違っていませんか……? 見るべきユーザー層、間違ってませんか……?


 何度だって何度だって言いますが、ペンタックスの経営が順調好調なら、誰も何も言いません。積極的に応援したいです。ですがペンタックスブランドは2006年にHOYAに買収されて、2011年にはリコーに再び売却された歴史があります。二度に渡る身売り、そのブランドがとっくに消滅していてもおかしくはなかった。


 で、リコーに買収されてから10年。ペンタックスの経営はどうなりましたか……? 良くなりましたか……? 毎年毎年、シャレにならない赤字決算出てたのは気のせいですか……? サービスセンター、じゃんじゃか閉鎖しませんでしたか……? 店頭販売、ほぼ全て引き上げませんでしたか……?


 つい先日、オリンパスがカメラ事業を売却しましたね。その時、オリンパスの株価はむしろ上がったと記憶しています。そう、「カメラ事業ってお荷物以外の何物でもない」って思われてるのですよ。リコーグループやリコーの株主たちはリコーイメージングをどう思っているのか。GRやシータは好調みたいですけど、ペンタックスブランドはどうなんですか……?


 はっきり言ってリコーからしたらペンタックスブランドなんてなくなった方が経営にとっては好ましいと思いますよ。株主にとってもそうです。……それでもリコーはずっとずっとずっとペンタックスブランドを「保護」し続けています。HOYAみたいにむしり取るものだけむしり取って、技術者をリストラして部門バラバラに解体して売り払ったりしていません。現状、それされても、もはや文句は言えなくないですか……?


 そろそろペンタックスはリコーに対する「温情」に応えなければならなくないですか? 温情に応えるっていうのは、リコーに対してきちんと堅実に収益を上げることです。リコーからすればババつかまされたようなもんじゃないですか。まさかHOYAから二束三文で買い取った訳じゃないでしょう?


 それなのに、それなのに! フィルムカメラというレッドオーシャンに漕ぎ出そうとするペンタックス。今のデジタルカメラですらも青色吐息なのに……? 泥船ですやん……?


 フィルム事業が儲からない、採算が取れないなんて誰の目にも明らかです。ニコンやフジでだって、フィルムカメラのプロジェクトは当然のことながら検討済だと思いますよ。実際ニコンだって2020年までF6というフィルム一眼レフを作っていたわけです。それでもニコンやフジが積極的にフィルムカメラを発売しなかったのって、結局は元が取れないからじゃないですか……?


 まあ、仮にペンタックスフィルムプロジェクトが採算が取れたとしましょう。で、ペンタックスの今の開発ペースからして、その新しいフィルムカメラっていつ完成するんですか? 2027年頃? そこで利益が上げられたとして、開発費の元が取れるのっていつ頃なんですかね……。10年後ぐらい? その頃、フィルムカメラブームってまだちゃんと続いているんですかね……? ていうかペンタックスブランド、まだ残ってるんですか……?


~自動車業界に見る技術継承と新製品開発~

 技術の継承を目的とした製品開発ってカメラ業界だけじゃなくて、自動車産業とかでもやってたりする訳です。中でも有名なのはトヨタの2000GTやレクサスLFAがそうです。


 上記の2台はいわゆるスーパーカーに属するものでして、値段も非常に高価なものとなっています。レクサスLFAに至っては3000万円を超えるものです。……ですが名車と名高い2000GTも、超々高価なLFAも「売れば売るほど赤字」な存在でした。技術の伝承って「教育」なので基本的に赤字になるわけですよ。なんなら、トヨタの初代プリウスだって何百億だか何千億だかの赤字案件で、元が取れたのってかなり最近のことのはずですよ。


 カメラメーカー。エンジニアの人たちは、どこの会社の人だってそりゃ本音はフィルムやりたいと思いますよ? でもみんな泣く泣く諦めて、断腸の思いでフィルムを切ってデジタルに社運を賭けた。あるいは一眼レフを切ってミラーレスに生き残りを賭けたわけじゃないですか。ペンタックスよりもずっと大きなメーカーがそうなのです。ペンタックスにそんな余裕、あるんですか……?


 そしてこれもまた自動車の話なのですが。90年代の頃「FRのスポーツカー」みたいなのが流行った(あるいは流行ったと勘違いされていた)時期がありました。国産のFRスポーツカーの代名詞と言えば日産のシルビアだったのですが(峠でドリフトしてミサイルにされるやつ)、やはり「シルビアの新しいのを作ってくれ作ってくれ!」と声高に叫ぶ人たちが多かった(多いように見えた)時代があったのです。


 日産はその声を受けて5ナンバーサイズのコンパクトなS15シルビアを発売しました。で、それが売れかと言うと売れなかったんですよねこれが。結局、買いもしないノイジーマイノリティだけが喚いていただけだったのです。


 おかげで今も日産は「FRスポーツカーを作ってくれと言う声があるのは承知している。本当に買ってくれるなら作りますよ? でも買ってくれなかったでしょう?」という態度でシルビア後継を頑なに作ってくれない訳です。


 やたらめったらフィルムカメラプロジェクトを礼賛する人たち。本当に新しい現代的なフィルムカメラなんて買うんですか? シルビアの例を思い出すのは自分だけですか? まさかと思いますが「フィルムカメラ……古い時代のカメラは『味』がある……ノスタルジーを……古き良きロマンを感じる……」みたいなノリだけでフィルムカメラ使ってませんか? ニコンF6は御購入されたんですか……? されたんですよね……?


 え!? それは現行ペンタックスユーザーだって大概じゃないかって!? あ、はい。すみません。


~賽は既に投げられている~

 ペンタックスはあくまでも「フィルムカメラの開発の『検討を開始』」しているだけであって、フィルムカメラの開発を決定している訳ではありません。……ですがこれだけ「賛同」「応援」の声があるなら、もうやるしかないでしょう……。(実態は不明ながら)ここまでの声を受けて「やっぱりフィルムやりません」とか言い始めたら、それはもう今まで必死でフィルム文化を支えてきたニコンやフジ、そしてフィルムユーザーに対する冒涜ですよ……?


 ペンタックスとしては、市場の声を量る為に、軽めの気持ちでああいうプレスリリースや動画を発表したのかもしれません。でもそれは「声」に出してしまった時点でゲームのサイコロは振られてしまったんですよ。


 今回の一件で、ペンタックスは従来のデジタルカメラユーザーを、ペンタックスを買い支えてくれていたユーザーの信用や信頼を大きく失ってしまった(そもそも失う信用はもはやなかったかもしれない。ユーザーはみんな既にゾンビかイエスマンの狂信者しか残っていなかったのかもしれない)。もしフィルムカメラプロジェクトを「やっぱり無理です」と取り下げても(あるいは途中で挫折しても)、今度は支持してくれたフィルムユーザーの信用まで失う訳です。


 じゃあもう前に進むしかないじゃないですか。ルビコンを渡ってローマをその支配下に抑えるしかない。大阪夏の陣の真田幸村のように、家康の本陣に切り込んで家康の首を取るしかない。フィルムカメラに参入して、そこできっちり利益を出すしかない。それだけがたったひとつの冴えたやり方です。


 ……もっとも、今のペンタックス、リコーイメージングの開発力や企業体力を考えた時。ルビコンを渡る力すら残っていないかもしれない(ありそう)。ルビコンと思っていたものは三途であったかもしれない(ありそう)。幸村みたいに結局は自害する羽目になるかもしれない(ありそう)。


 行くも地獄、戻るも地獄。あのフィルムカメラプロジェクト宣言は、ペンタックス自身の首を絞めてしまった気もします。でも、もうサイコロは振られてしまった。たぶんペンタックス自身も気がついていないかもしれませんが、投げてしまったんですよ、サイコロを。初めてしまったんですよ、サバイバルゲームを。修羅の物語を、始めてしまったんですよ……


~ペンタックス・デジタルカメラユーザーの憂鬱~

 ……個人的な想いとしては「ペンタックスK-1 MarkⅢ」が欲しかった。欲しくて欲しくてたまらなかった。具体的にはニコンD850やキヤノン5D MarkⅣに並び立つような「現代的な一眼レフ」が欲しかった。それを信じ続けてずっとペンタックスを応援したきた。


 友人知人に「カメラが欲しい」という人がいればペンタックスを薦めて、あれこれ説明したり作例を実際に見せたりして、数十人に買って貰ったりもしました。でもここ2年ぐらいは他社機に置いてきぼりにされすぎて、とてもではないがおススメできるような状況ではなくなってしまった。


 ペンタックスは非常によくアンケートを採ってくれる会社です。でもここ最近は何を書けばすらいいのかも分からなくなっていた。だって何を書いたって、今のペンタックスを見ていたら「実現不可能な無茶ぶり」にしかならないと思うようになってしまっていたので。どんな些細なことであっても、それはきっと実現しない。実現できるだけの開発リソースがない。いい所、Jリミテッドで派手な外装を追加して登場させるぐらいでは。あとアパレル製品出すぐらい。……リコーエレメックスの腕時計部門かな!?


 ここ数年、ペンタックスユーザーとして自分は失望や諦念に苛まれていました。それが今回の宣言で完膚なきまでに打ちのめされてしまいました。


 「一眼レフの未来を作る」とペンタックスステイトメントで宣言していたペンタックス。未来どころか現代の一眼レフに追いつけていなのに、まさかフィルムなんて過去の遺物に飛びつくとは思いもしなかった。くどいようですが、フィルムカメラプロジェクトの理念そのものには賛同しています。


 「K-1 MarkⅢは登場しない。自分の思い描いたペンタックスフルサイズは登場しない。AFがバシバシ決まって、そこそこハイレスポンスでオールラウンドに戦えるようなK-1は登場しない」。以前から薄々気がついていたけれど、今度こそ確信に変わってしまった。10年経っても20年経っても、ペンタックスは他社の一眼レフにすら追いつけない。それを知ってしまった。そして……「お前はもうペンタックスの顧客じゃない」、はっきりそれを突きつけられてしまった気がした……


 ペンタックスは「デジタルもちゃんとやる」とは言っています。でも今の開発ペースやお家芸となった発売延期を見ていたら、そこに信用はないわけですよ。K-3 MarkⅢでペンタックスの限界を見たし、KFの登場がそれをさらに悪化させてしまった。


 K-1 MarkⅡ(2016年4月28日の発売日に購入したもの)はとても気に入っているので、これは長く長く使い続けるつもりです。でも、たぶん自分がもはやKマウントのボディを新たに購入することはないでしょう……。そもそも5年単位で出ないでしょ? フィルムと並行して開発していくならなおのこと遅れるのでは?


 自分勝手にK-1 MarkⅢを夢見ていた自分は、ただの厄介なユーザーでしかなかったのだ……


~目一杯の祝福を君(ペンタックス)に~

 今回のフィルムカメラプロジェクト宣言。ペンタックスにとってあらゆる意味で「ラストチャンス」であると思います。きちんと採算が取れたら良いけれど、もしここで挫折したら……戻って来た時にはリコーグループに席がないかもしれない。もしくは顧客はどこにも残っていないかもしれない……


 ……とは言え、ペンタックスユーザーって筋金入りのバカとお人好しばかりなので……(含む、自分)。「バンドで生きていく!」と宣言して高校中退して家を飛び出して東京に出た放蕩息子がトボトボ帰って来たのを両親が呆れながらも出迎える感じで……。仮にフィルムカメラプロジェクトから撤退してきたとしても、ペンタックスユーザーはなんやかやで受け入れてくれると思いますよ。みんな優しいですから。なんやかやで。


 フィルムをやろうがやるまいが、どのみちペンタックスが毎年毎年黒字化して経営改善するなんて未来は、もはや誰も描くことができないので……。それだったらここで大きく一華咲かせてみるのもいいんじゃないでしょうか。なら、ここは笑ってペンタックスを送り出してあげましょう。


 誰も見たことのない世界へ突き進む君へ。その未来に幸あれ。祝福あれ。



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